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岐阜地方裁判所 昭和50年(ワ)64号 判決

原告 馬場美子

被告 馬場邦夫 外二名

主文

一  原告の被告馬場邦夫に対する債権者代位権に基づく訴を却下し、同被告に対する債権者取消権に基づく請求を棄却する。

二  原告のその余の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告馬場邦夫は原告に対し、左記各登記手続をせよ。

(1) 別紙物件目録(一)(二)(三)記載の各不動産につき、別紙登記目録(一)記載の馬場英樹持分全部移転登記の抹消登記

(2) 右各不動産の五分の四の持分につき、別紙登記目録(二)記載の所有権更正登記手続の真正なる登記名義への回復登記

2  被告馬場勝雄は原告に対し、別紙物件目録(四)記載の不動産につき、別紙登記目録(三)記載の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

3  被告馬場敬郎は原告に対し、別紙物件目録(五)記載の不動産につき、別紙登記目録(四)記載の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  馬場英樹に対する原告の債権

(一) 原告と馬場英樹(以下、訴外英樹という)と昭和三一年五月二〇日結婚(同年七月一一日婚姻)し、その間に長女香子(昭和三三年一一月二七日生)をもうけた。

(二) 右結婚後原告は、別紙物件目録(一)(二)記載の各土地を管理整備し同目録(三)記載の建物の増改築や修理をして生活の根拠となすなど財産の取得に協力し、円満な家庭生活を営んできた。

(三) しかるに、(1)訴外英樹は、昭和四九年二月家を出て原告と別居し、同年五月原告との離婚を求めて岐阜家庭裁判所に調停の申立をなし、これが不調に終るや、同年一一月原告に対する離婚の訴(岐阜地方裁判所同年(タ)第二八号)を提起したが、(2)訴外英樹が右調停の申立などをなすに至つた動機(目的)は、訴外英樹が、昭和四七年末頃から佐野恵以子と情交関係を生じていたため、原告と離婚したうえ右恵以子と婚姻せんとするにある。

(四) 昭和四九年五月になされた右離婚調停申立の動機が右(2)のとおりであり、かつ、原告と訴外英樹との婚姻生活は当時既に一八年間の長きに及んでいたのであるから、原告は訴外英樹に対する債権(以下、本件債権という)として、離婚に基づく慰藉料(以下、本件離婚慰藉料という)請求権および財産分与(以下、本件財産分与という)請求権を、潜在的にせよかなり高度な蓋然性をもつて確定的に有していたものというべきである。

(五) そこで、原告は訴外英樹に対し反訴(岐阜地方裁判所昭和五〇年(タ)第二号離婚請求事件)を提起して、訴外英樹との離婚を求めるとともに、本件離婚慰藉料として金六〇〇万円および本件財産分与として金一三二〇万円の各支払を求めたが、岐阜地方裁判所は昭和五五年三月三一日本訴離婚請求を認容したほか、右反訴につき離婚および金五〇〇万円の財産分与の請求は認容したものの、その余を排斥する判決を言渡したので、原告はこれを不服として名古屋高等裁判所に控訴(昭和五五年(ネ)第二一三号)し、右本訴反訴事件とも現に訴訟係属中である。

2  被告馬場邦夫に対する請求

(一) 訴外英樹は別紙物件目録(一)ないし(三)記載の各不動産(以下、本件不動産という)を昭和二六年一月二日相続により取得し、いずれも昭和四五年中に訴外英樹に対する所有権移転登記が経由された。

(二) 被告馬場邦夫(訴外英樹の実兄で司法書士)は訴外英樹とともに、本件不動産につき、別紙登記目録(二)および(一)記載の各登記(以下、本件登記という)手続をなし、その旨の登記が経由されている。

(三) しかしながら、(1)被告馬場邦夫と訴外英樹は本件登記手続をなした際、いずれも本件登記手続をなす意思などなかつたのに、原告から本件債権に基づく追及を免れるため、その意思があるものの如く仮装することを合意しているから、本件登記手続は通謀による虚偽表示として無効であるか、あるいは、(2)訴外英樹は、当時本件不動産以外に見るべき資産がなく、原告のこれに対する寄与が多大で本件債権も高額となるのに、これらを熟知しながら本件登記手続をなしたのであるから、本件登記手続は債権者取消権に基づいて取消されるべきである。

(四) よつて、原告は被告馬場邦夫に対し、(1)債権者代位権に基づき、訴外英樹の同被告に対する登記請求権を代位行使し、あるいはこれと選択的に、(2)原告の有する債権者取消権に基づき、詐害行為を取消し、もつて請求の趣旨1記載のとおり登記手続をなすよう求める。

3  被告馬場勝雄と同馬場敬郎に対する請求

(一) 訴外英樹は別紙物件目録(四)と(五)記載の各不動産を昭和二六年一月二日相続により取得し、いずれも昭和四五年中に訴外英樹に対する所有権移転登記が経由された。

(二) 訴外英樹は、(1)昭和四九年一月一五日被告馬場勝雄に対し別紙物件目録(四)記載の不動産を贈与し(これに基づいて右不動産につき別紙登記目録(三)記載の登記が経由された)、(2)同年六月二〇日被告馬場敬郎に対し別紙物件目録(五)記載の不動産を贈与した(これに基づいて右不動産につき別紙登記目録(四)記載の登記が経由された)。

(三) しかしながら、訴外英樹は、当時本件不動産以外に見るべき資産がなく、原告のこれに対する寄与が多大で本件債権も高額になるのに、これらを熟知しながら、右各贈与契約を締結したものである。

(四) よつて、原告は被告馬場勝雄と同馬場敬郎に対し、債権者取消権に基づき、右各贈与契約を取消し、それぞれ請求の趣旨2と3記載のとおり登記手続をなすよう求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1の事実のうち、(一)は認めるが、(二)は否認する。(三)の(1)は認めるが、(2)は否認する。(四)は否認するが、(五)は認める。

2  同2の事実のうち、(一)と(二)は認めるが、(三)は否認する。

3  同3の事実のうち、(一)と(二)は認めるが、(三)は否認する。

第三証拠〈省略〉

理由

原告は、被告らに対し訴外英樹のなした本件登記等の抹消等の登記手続を求めるため、訴外英樹に対して有する離婚に基づく慰藉料請求権(本件離婚慰藉料請求権)と財産分与請求権(本件財産分与請求権)を被保全債権として債権者代位権と債権者取消権を各行使する旨主張するところ、請求原因1の(一)と(三)(1)と(五)の各事実は当事者間に争いがなく、この事実によれば、原告と訴外英樹に対し昭和五五年三月三一日に言渡された第一審判決において、離婚請求は本訴反訴とも、本件財産分与請求権は金五〇〇万円の限度でそれぞれ認容された(本件離婚慰藉料請求権については全部排斥された)ものの、右判決に対し原告から控訴がなされたため、原告と訴外英樹との間の離婚請求は本訴反訴とも控訴審に係属中であり、その間の離婚はいまだ成立していないことが明らかである。

ところで、原告と訴外英樹との離婚の成立によつて生ずることあるべき本件財産分与請求権は、第一審判決において金五〇〇万円の限度で認容されたとはいえ、将来確定判決などによつて具体的内容が形成されるまでは、その範囲および内容はいまだ不確定かつ不明確であるといわざるをえないから、かかる財産分与請求権は、これを被保全債権として債権者代位権を行使することのできないものであり、また、原告主張にかかる昭和四九年中の詐害行為より前に成立していた債権ともいい難く、これを被保全債権として債権者取消権を行使することもできないものといわなければならない。

しかも、本件離婚慰藉料請求権は、訴外英樹の有責行為により原告において離婚をやむなくされ精神的苦痛を蒙つたことに対する慰藉料の請求権であり、財産分与請求権とはその性質を必ずしも同じくするものではないが、仮に原告においてかかる慰藉料請求権を取得することがあるとしても、それは右離婚の成立しない限り発生せず、右離婚が成立するまではその存否および範囲が不確定であるという点においては財産分与請求権と同様であるというべきであるから、本件離婚慰藉料請求権を被保全債権として債権者代位権および債権者取消権の各行使はできないものといわなければならない(なお、他に訴外英樹の原告に対する個別の具体的不法行為の主張はないうえ、本件全証拠に照らし勘案すると、かかる不法行為を認めることも困難である)。

そうすると、原告の被告馬場邦夫に対する債権者代位権に基づく訴は、その代位原因を欠く不適法なものとして却下を免れず、被告らに対する債権者取消権に基づく各請求は、その被保全債権を欠くものとして爾余の点につき判断するまでもなく理由がないから、いずれも棄却しなければならない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松永眞明)

別紙目録〈省略〉

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